アンプ設計方法 「戻る」 「TOP」
GI-6b 7MHz 200Wリニアアンプの製作

ものすごく久しぶりの更新。
人にお見せするにはお恥ずかしいレベルですが、どのように設計したか公表します。
結構いい加減ですので不備等多々あると思いますが、ご指摘・ご感想歓迎します!

※設計に起因する事故や不注意などによる機器の損傷等については責任を負いかねます。
参考にされる場合はご自身の十分な注意の元、ご自身の責任でお願いします。

<< 簡易設計法 設計法 回路図 >>
2008.8.12

■簡易設計法
(実際には使用しませんので紹介のみ)
 すでに一部製作を始めてしまいましたが、初めは簡易設計法でかなり大雑把に設計しました。「簡易設計」というのは動作点をあまり考えず、信号が底打ち・頭打ちすることなくフルスイングできるものと仮定した設計です。


1.バイアス点を決める
 プレート損失の半分くらいの電力が消費されるようにバイアス電流を決めます。
なお使用する電源はV(DC) = 1750Vです。

 350W x 0.5 = 175W 消費されるようにバイアス電流を決めると、
 P = V x I より、Ip(DC) = 175W / 1750V = 100mA となります。
 つまりバイアス点は(Ep, Ip) = (1750V, 100mA)になります。


2.プレート電圧振幅Ep(AC)を決める
 DC電圧(1750V)を中心に±85%くらいまで振ります。大きく振った方が効率が良いですが、電圧の最小点が小さくなりすぎるとプレート電圧Epとグリッド電圧Egが近くなりグリッド電流がたくさん流れひずみが大きくなってしまうためあまり振り過ぎないようにします。

 Ep(DC+AC) = 1750 ± (1750 x 0.85) = 1750V ± 1485V(0-p)


3.欲しい出力電力からプレート電流振幅Ip(AC)を決める
 
 P(out) = 200W 欲しいとすると、
 P(out) = (Ep(AC)/√2) x (Ip(AC)/√2) より ※Ep(AC), Ip(AC)は 0 to peak値です。
 Ip(AC) = (P(out) x 2) / Ep(AC) = 400W / 1485V = 270mA(0-p)


4.Ep-Ip線図からドライブに必要な入力グリッド電圧Egを読み取る


 グラフより、
 バイアス点のEg = -17V
 Ip最大振幅時のEg = 16V(純正のグラフ上には無いので適当に外想する)

 よってEgの振幅(0-p)は、Ep(AC) = 16 - (-17) = 33V


5.入出力インピーダンスZ(in),Z(out)を求める
 
 Z(out) = Ep(AC) / Ip(AC) = 1485V / 270mA = 5500Ω

 Z(in) = Eg(AC) / Ip(AC) = 33V / 270mA = 122.2Ω


6.上記に従ってバイアス回路や入出力マッチング回路などを作成する


結構いい加減ですがこんな感じです。
実際にはバイアス電流が少なくIpが底打ちしてしまうため200Wもパワーが出ませんし、入出力インピーダンスも2,3割ずれることが予想されます。本当に200W出力を得るためには3割増しくらいにプレート電流を振ってあげると良いと思います。(簡易設計で260Wくらい出るように設計すれば完成品は200Wくらい出るはず)

ちなみに後述の設計方法で述べますが、底打ちなく200W出そうとするとバイアス電流が280mA必要となり、プレート損失Pd = 1750V x 280mA = 490W、これはGI-6bの許容プレート損失350Wを大幅に上回るため球が逝ってしまいます。つまりGI-6bを使用する限りA級増幅で200W出力は無理です。
▲このページのトップへ▲



<< 簡易設計法 設計法 回路図 >>
2008.8.12

■設計法
 ここでは私が実際に設計した方法を説明します。簡易設計法ではIpの底打ちを考慮していない、2次高調波以上を考慮していないなど不足している点が多々ありましたが、ここでは底打ちの考慮、基本波成分のみを取り出して電力を計算することなどでより正確な値が出るように心がけました。なお設計に当たっては大学時代の無線部の先輩である橋本さんには様々なアドバイスをいただき大変お世話になりました。この場を借りてお礼を申し上げます!


1.電源の決定(トランスを決める)
 トランスはそうそうと好きな値の物を手に入れるのは難しいためまずここを決定してから設計を開始してみました。仕様の決め方としては簡易設計法で設計しながらEpを振ってみて、大雑把に決めて良いと思います。私の場合は100V入力-1200V出力, 400VAのトランスを巻いてもらい、DC1750V, 400Wの電源を先に作成しました。RTTYのように連続波を出すような使い方を想定しないようでしたらトランス容量=許容プレート損失くらいでも大丈夫かもしれません。

 ブリーダー抵抗を90kΩとしましたのでここで消費される電力は、
 1750V / 90kΩ = 34W

 つまり実際に真空管で消費可能な電力は、
 400W - 34W = 366W となります。

 なお上記にあるように、出力電圧は1750V(DC)です。

 以下はこの電源仕様を元に設計を行います。


2.バイアス点を決める
 基本的な考え方は簡易設計と同じで、Ep(DC) x Ip(DC)が真空管の許容プレート損失を絶対に超えないことが大切です。簡易設計法では考慮しませんでしたが、バイアス電流Ip(DC)が十分に無い時は底打ちしてしまうため所望の出力が得られないばかりか歪が大きくなり、高調波が発生します。

 電源の仕様よりEp(DC) = 1750V、許容プレート損失350WギリギリになるIp(DC)は
 P = V x I より、Ip(DCmax) = 350W / 1750V = 200mA

 つまり200mA未満であれば無事動作することが分かります。
 ここでは許容損失の80%として、Ip(DC) = 200mA x 0.8 = 160mA としました。

 普通の人は50%~60%くらいにするようですが、いっぱい流してあげた方が歪が小さくなるのでちょっと多めに流してあげることにします。

ここで決まったこと
バイアス点:(Ep(DC), Ip(DC)) = (1750V(DC), 160mA(DC))


3.プレート電圧振幅Ep(AC 0-p)を決める
 これは簡易設計と同じで、DC電圧(1750V)を中心に±85%くらいまで振ります。大きく振った方が効率が良いですが、電圧の最小点が小さくなりすぎるとプレート電圧Epとグリッド電圧Egが近くなりグリッド電流がたくさん流れひずみが大きくなってしまうためあまり振り過ぎないようにします。

 Ep(DC+AC) = 1750 ± (1750 x 0.85) = 1750V ± 1485V(0-p)

ここで決まったこと
Ep(AC 0-p) = 1485V
※0 to peak 片振幅値です


4.欲しい出力電力からプレート電流振幅Ip(AC 0-p)を決める
 ここからが本番です!が、ちょっと回り道。まず上で簡易設計した時のIpとEpの瞬時値を詳しく見てみましょう。 (Ep(DC), Ip(DC)) = (1750V, 100mA), Ip(AC 0-p) = 270mA


見事にプレート電流Ipの下側が底打ちしています。簡易設計では底打ち無しで200Wで設計しているためパッと見でも200W出るようには見えませんし、これだけ潰れているということはLPF(ローパスフィルタ)を入れないと高調波が垂れ流しになってしまいそうです。
※一方Epは頭打ちしそうなものですが、出力タンク回路のおかげで電源電圧以上の高電圧を発生できるらしいです。理論は良く分かりません(^^;

そこでちゃんと出力電力を見積もるためには目的の周波数成分だけ取り出して設計してあげる必要が出てきます。目的の周波数成分と高調波成分と分離するためにはフーリエ級数を使います。


(フーリエ級数の話)
-------------------
ちょっと面倒なので興味のある方だけ見てください。
周期的な信号はどんな信号でもsinとcosの足し算で表すことができ、

このように各周波数成分に分離できます。a0はDC成分、(a1cosx+b1sinx)は基本波、
(a2cos2x+b2sin2x)は2次高調波、(a3cos3x+b3sin3x)は3次高調波…と、無限大高調波までを足すことでもとの複雑にひずんだ波形を再現できます。実際には10次高調波など高次の高調波は微々たる物なのでDC~3次高調波くらい、せいぜいDC~5次高調波まで計算で求めておけばかなり精度良く見積もることができます。
上記の片側が潰れた波形は以下のような形になります。

Ip = Ip(DC) - Ip(1次 0-p)*sinx - b2*cos2x - a3*sin3x - b4*cos4x…

欲しいのはアンダーラインをつけたDC成分のIp(DC)と基本波成分のIp(1次 0-p)ですね。それ以降の項の係数(b2、a3、b4、a5…)がそれぞれ2次~5次…高調波の成分になります。
-------------------


エクセルを使ってフーリエ級数展開するとIpは以下のようになります。

Ip = 0.142 - 0.197sinx - 0.046cos2x - 0.017sin3x - 0.002cos4x …

2次以上の高調波はLPFでカットしてしまうので実質は、

Ip = 0.142 - 0.197sinx となり、
Ip(DC) = 142mAIp(1次 0-p) = 197mA であることが分かりました。

おや、何か変ではありませんか?そう、バイアス電流Ip(DC) = 100mAを供給していたはずなのになぜか直流成分が142mAに増加しています。この理由は下側が底を打っているため、1周期を平均すると底打ちしていないときに比べ平均値が上がるからです。つまり送信時は消費電力が上がります。一方底打ちしない程度の振幅のとき(A級増幅)はアイドリング時も送信時も直流成分は変わりませんので消費電力は変わりません)。


このグラフはIpの歪み波形から基本波成分だけを取り出して重ね書きしたグラフです。やはり底打ち無しとして設計したよりも明らかに振幅が小さくなっていてパワーが出ていなそうなことが分かります。この状態での出力電力を見積もってみましょう。

出力電力 P(out)
 = Ep(AC rms) x Ip(1次 rms)
 = {Ep(AC 0-p) / √2} x {Ip(1次 0-p) / √2}
 = (1485V x 197mA) / 2
 = 146.3W

やはり200W出ていませんでした…。ということはもっとIpを大きく振らないといけません。
以上、長い回り道終了(^^;


ここから設計に戻ります
■バイアス電流Ip(DC)と振幅Ip(AC 0-p)アップ!
振幅Ip(AC 0-p)を大きくするだけではなく、バイアス電流Ip(DC)を大きくすると底打ちが少し緩和しますのでパワーが出ます。そのためバイアス点もあわせて再設計を行うことにします。

■2.で決めたバイアス点に加え、以下のように振幅を設定してみます。
 (Ep(DC, Ip(DC)) = (1750V, 160mA), Ip(AC 0-p) = 360mA



■当然底を打ってしまうので基本波成分を求めるために、エクセルでIp(瞬時値)をフーリエ級数展開します。

Ip = 0.206 - 0.278sinx - 0.055cos2x - 0.024sin3x - 0.002cos4x …

2次以上の高調波はLPFでカットしてしまうので実質は、

Ip = 0.206 - 0.278sinx となり、
Ip(DC) = 206mAIp(1次 0-p) = 278mA であることが分かりました。


■この状態での出力電力を見積もります。

出力電力 P(out)
 = Ep(AC rms) x Ip(1次 rms)
 = {Ep(AC 0-p) / √2} x {Ip(1次 0-p) / √2}
 = (1485V x 278mA) / 2
 = 206.4W

200W出ることが分かりました!このIp振幅で出力はOKそうです。ただし許容プレート損失を超えていないか、電源容量を超えていないかを確かめる必要があります。


■電源電力(入力電力)を見積もります。

Pin(DC) = Ep(DC) x Ip(DC) = 1750V x 206mA = 360.5W

電源容量は1.で求めたように366Wですので結構ギリギリという感じです。ただしギリギリというのはRTTYのように連続送信した場合の話ですので、通常のCWやSSBでは問題なく使用できそうです。RTTYをやるときはあんまり無茶してトランスを燃やさないように…。


■プレート損失を見積もります。

プレート損失は
P(pd) = 電源入力電力Pin(DC) - 出力電力P(out) = 360.5 - 206.4 = 154.1W

これは許容プレート損失350Wより十分小さいので球的には余裕であることが分かりました。
※面白いことはアイドリング時よりも送信時のほうがプレート損失が減るところです。これは上の式を見れば納得できます。

ということで長い道のりでしたがプレート電流振幅はこれでOK!

ここで決まったこと
Ip(AC 0-p) = 360mA
※0 to peak 片振幅値です
P(out) = 206.4W


5.入力グリッド電圧を求める
 ようやくバイアス点とIp最大点が決まったので、ドライブに必要な入力グリッド電圧を求めることが出来ます。

バイアス点は(Ep(DC), Ip(DC)) = (1750V, 160mA)、
Ip最大点は(Ep, Ip) = (265V, 520mA)となるのでEp-Ip線図にプロットし動作線を引きます。※Ep(min) = 1750V - 1485V、Ip(max) = 160mA + 360mA



Ep-Ip線図より
Ip最大点におけるグリッド電圧 Eg(max) = 21V
バイアス点におけるグリッド電圧 Eg(DC) = -15V
と読み取れます。

Eg(DC)はIp(DC) = 160mA流すために必要なDC電圧、つまりバイアス電圧となります。

Ipを片側360mA振るためにはグリッド電圧を片側 {Eg(max) - Eg(DC)} 振る必要があります。

つまり流れとしては、
Eg = -15V ± {21V - (-15V)} = -15V ± 36V とすることでIp が振られ、
P(out) = 206.4W 出る、ということになります。



ここで決まったこと
Eg(DC) = -15V
Eg(AC 0-p) = 36V
※0 to peak 片振幅値です


6.エキサイタ(無線機)からの入力電力を求める
 4.で求めたグリッド電圧振幅Eg(AC 0-p)をエキサイタ(無線機)から作り出しますが、このとき必要な電力を求めます。

必要な入力電力は必要なグリッド電圧振幅Eg(AC rms)と、(基本波プレート電流振幅Ip(1次) + 基本波グリッド電流振幅Ig(1次))(rms)を掛けることで求めます。

P(in) = {Eg(AC 0-p)/√2} x [{Ip(1次 0-p) + Ig(1次 0-p)}/√2]

しかし今回使用するGI-6bのデータシートにはIgのグラフが無いためグリッド電流を正確に見積もることができません。そのためここではIgはIpの2割程度と仮に見積もって計算します。

P(in)
= {Eg(AC 0-p)/√2} x [{Ip(1次 0-p) x 1.2}/√2]
= (36V x 278mA x 1.2) / 2
= 6.0W

ということで無線機からの入力は6Wもあれば200W出力が得られてしまうようです。100W機をエキサイタにするにはちょっと贅沢すぎる感じ…。ちゃんと免許をおろすには巨大なアッテネータが必要になるかもしれません。

ここで決まったこと
P(in) = 6.0W



7.入出力インピーダンスを求める
 マッチング回路を作成するために入出力インピーダンスを求めます。

■入力インピーダンス
ここでもIgが必要ですが入力電力計算と同様にIg = 0.2Ipと仮に見積もります。

Z(in)
= Eg(AC 0-p) / {Ip(1次 0-p) + Ig(1次 0-p)}
= Eg(AC 0-p) / {Ip(1次 0-p) x 1.2}
= 36V / (278mA x 1.2)
= 107.9Ω

無線機の出力インピーダンスは50Ωですので軽いマッチング回路が必要になります。直接無線機の出力をアンプに突っ込むと SWR = 2.16 くらいなので、はじめはチューナーでごまかして実験しようかなと思っています。

■出力インピーダンス
Z(out)
= Ep(AC 0-p) / Ip(1次 0-p)
= 1485V / 278mA
= 5342Ω

これをアンテナの50Ωにマッチングさせる必要があるので結構大変です。はじめに適当に計算したものが4600Ωだったのでそれにあわせてコイルを巻き始めてしまいましたが、もっと巻かないといけないかもしれません。


8.まとめ

プレート電圧
■Ep(DC) = 1750V
■Ep(AC 0-p) = 1485V ※片振幅値

プレート電流
■Ip(DC) = 160mA
■Ip(AC 0-p) = 360mA ※片振幅値

グリッド電圧
■Eg(DC) = -15V
■Eg(AC 0-p) = 36V ※片振幅値

RF入力電力・インピーダンス
■P(in) = 6.0W
■Z(in) = 107.9Ω

RF出力電力・インピーダンス
■P(out) = 206.4W
■Z(out) = 5342Ω


プレート損失電力
□Pd(idle) = 280W < 350W ※アイドリング時
□Pd(tx) = 154.1W < 350W ※送信時

電源消費電力
□PinDC(idle) = 280W < 366W ※アイドリング時
□PinDC(tx) = 360.5W < 366W ※送信時

アンプ効率
□η= 206.4W / 360.5W = 57.3%

アンプゲイン
□G = 10Log(206.4W / 6.0W) =15.4dB
▲このページのトップへ▲



<< 簡易設計法 設計法 回路図 >>
■回路図

▲このページのトップへ▲


「戻る」

「TOP」